化学メーカーか製薬メーカーか就職するならどっち?化学系研究者が比較してみる【研究職】

有機化学の研究室に所属している人の多くは化学メーカーもしくは製薬メーカーに就職します。研究職として就職するにあたってそれぞれどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。私も有機化学の研究室に6年間在籍し、化学メーカーと製薬メーカーを中心に化学系博士課程の学生として就職活動を行いました。今回は私の知見を踏まえてこの二つのメーカーを比較していきたいと思います。

仕事内容

製薬メーカー

ケミストが製薬メーカーで扱う医薬品は低分子化合物であることがほとんどなので有機化学の知識がそのまま生きます。
しかし創薬研究の成功率はとても低く、自分が携わった化合物が1つも世にでることないまま定年を迎えてしまう人も多くいます。
また運よく世に出る医薬品の研究に携われたとしても、1つの薬が世に出るには20年以上の長い年月を必要としまうため、人によってはモチベーションを維持することが難しくなります。
しかし、1つの新しい医薬品が世にでることで与える影響は多大です。新薬が一つでるという事は、これまでだったら失われていたはずの生命や健康が救われるという事です。感じるやりがいは他の職種では感じられないものとなるでしょう。

化学メーカー

化学メーカーでの活躍の場は多岐に渡りますが医薬品や農薬を除いてそのほとんどが高分子を扱うこととなるでしょう。低分子を扱うとしてもポリマー合成のためのモノマー合成など単純な骨格に限られます。
化学メーカーの研究から実用化までのスパンは製薬メーカーと比べてとても短く、数年で世にでることもよくあります。
また、前述のように化学メーカーは事業を幅広く有していることが多く、様々な種類の研究に携われるのも化学メーカーの良いところと言えるでしょう。

勤務地

製薬メーカー

製薬メーカーは複数の研究所を持つ事はあまりありません。
複数の研究所を持っていたとしてもそれぞれの研究所の役割が確立されているので、就職した場合の勤務地は自分の専門と照らし合わせることで就職活動の時点でわかります。
つまり「配属ガチャ」というものがない場合がほとんどです。
また、それに伴って転勤なども少ないと考えられます。東京や神奈川などの都会に研究所を構える企業もあり、「望まぬ地方勤務」を避けることができます。
例えば第一三共は創薬研究拠点を東京の品川に集中させています。

化学メーカー

化学メーカーは多くの事業を展開していることから、大手の企業になるほど多くの研究所を有しています。
内定をもらっても自分の勤務地がすぐわかる事は少なく、入社直前もしくは入社後にわかることがほとんどです。
「配属ガチャ」を避ける事は難しく、それに伴い就職後の転勤の恐れもあります。
博士は修士と比べて大学での研究を考慮した上に研究開発に力を入れている部署に配属される可能性が高いので、修士よりは勤務地の予想が立てやすいです。しかし、あくまでも「予想」ですので、博士でも全く関係のない部署に就くこともあり確証は得られません。

年収

製薬メーカー

就活動向.comによると製薬業界の平均年収は763万でした。
個別で企業の年収を調べても製薬メーカーは1,000万越えがゴロゴロとあり、年収は他業種と比べてもとても高いと言えるでしょう。福利厚生、特に家賃補助もとても充実しています。借り上げ社宅制度を採用しているところが多く、賃貸に少しの自己負担で住むことができます。大手であれば上限10万円で8割負担してくれるところもあります。こうした補助により年収以上の恩恵を感じられます。
一方で、寮生活の方が楽しそう!という人は借り上げ社宅だと寂しいかもしれませんね。

化学メーカー

就活動向.comによると化学業界の平均年収は656万でした。
化学メーカーも他の業種と比べて悪くはないのですが、製薬メーカーが圧倒的に高いです。化学メーカーは寮制度を採用しているとこが多いです。会社の寮に安い値段で住むことができます。どうしても寮に住みたくない人は自費で賃貸に住まなければなりません。

採用時期

製薬メーカー

製薬メーカーは博士の早期採用を行なっているところが多いです。
大手であればほぼ確実に博士の早期採用を行なっています。中堅メーカーでも研究に力を入れている企業は早期採用を導入しています。2022年入社の学生の採用時期で最も早かったのがアステラス製薬で、なんと2020年の8月6日にエントリーが開始されました。
博士の早期採用を行う企業と採用日程【化学メーカー・製薬/医薬品メーカー・精密機器メーカー等】 一方、修士のみの採用や、博士の早期採用を行なっていない製薬メーカーは就活ルールをちゃんと守り、6月から面接を解禁する企業が多いようです。

化学メーカー

博士の早期採用は大手であれば行なっている企業もありますが行なっていない企業が多数と考えてよいでしょう。
化学メーカーに関しては就活ルールはあまり守られてない印象が強いです。4月、5月の時点で面接を解禁している企業が多いです。
また、奨学生の募集などを通して修士でも早めの採用に力を入れている企業もあります。
就活生向け奨学生採用を行う企業【化学メーカー・非鉄金属メーカー・鉄鋼メーカー】

修士or博士

製薬メーカー

早期採用を行なっていることからも製薬メーカーは博士の採用に積極的です。研究職では修士の採用を見送り、博士しか採用しない企業も現れています。そうでなくてもほとんどの大手は博士の早期採用を行なっているため、博士採用によって余った枠を多くの修士で取り合うという構図になっています。
製薬メーカーでは修士で入社してからも博士号を取得する人が多いようです。これは博士の専門性が求められているだけでなく、管理職になるための条件だったり、留学制度を利用するための条件に「博士号」の有無を設けている製薬メーカーが多いからです。

化学メーカー

化学メーカーでは博士号の有無を重要視される事は多くありません。
就職活動も修士と博士で同時に行ない「修士でも博士でも優秀なやつを取る」というスタンスの会社が大手には多いです。
修士の人が研究所長を務めている事も多く、修士卒と博士卒をフラットに見ている事がわかります。
事業が多岐にわたる化学メーカーでは博士の高い専門性はそこで必要ではなく、入社してから企業で育てるという考えが強いように思います。

採用人数

製薬メーカー

大手だとしても各専門分野に対して数名ずつ。製薬メーカーの研究職はかなりの狭き門。例えば
第一三共(2020年度採用実績)研究/開発職合わせて約50人
アステラス製薬:(2020年度採用実績)院卒38人(営業職も含む)
エーザイ:(2020年度採用実績)創薬研究職16~20人
となる。創薬研究職の中でも化学系と生物系は約2:8の割合で採用されることからも化学系の採用人数の少なさが伺えるでしょう。
博士はもちろんのこと、修士課程の学生にとってはその枠に入るのはかなり難しいと言えるでしょう。

化学メーカー

かなり多くの理系人材を採用します。例えば
三菱ケミカル(2020年度採用実績)技術系181人
住友化学(2020年度採用実績)技術系92人(内博士32人)
三井化学(2020年度採用実績)技術系68人
となる。化学メーカーというくらいなので、もちろん生物系の学生より化学系の学生を多く採用しています。

安定性

製薬メーカー

安定性の面では製薬メーカーは化学メーカーに劣っています。実際、近年多くの製薬メーカーが早期退職を募っています。
新薬メーカーはギャンブル業種と呼ばれており、新薬を出せば大きな利益を上げることができ、出せなければ研究費だけがかさみ潰れていきます。新薬を世に出した時のインパクトは大きく、大手の製薬会社でも1つ2つの医薬品が利益のほとんどを占めていることが多々あります。現在出している薬の特許が切れるまでにまた新たな収益の柱となる薬を生み出し利益を上げなければなりません。

化学メーカー

化学メーカーは比較的安定的な業種です、幅広く事業を展開している場合が多く、1つの事業が不振でも他の事業で補うということができるからです。また、ニッチな分野で世界一の製品や技術を持つ企業も多く、他の会社に取って代わられずらいという利点があります。実際、化学メーカーでのリストラや早期退職のニュースはあまり聞きません。しかし、会社としてもお金にならない、将来性のない事業は縮小していきますので、事業縮小に伴った、転勤や部署移動は頻繁に行われています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です